

株式会社
計測基盤技術研究所
Fundamental Measurement Institute of Technology Corporation (f-MIT)
代表取締役 坂入 実 Representative Director Minoru Sakairi
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ヘルスケア企業の動向(3)
ーGAFAがヘルスケア分野に本格的に参入しはじめたー

最近の動きとして注目すべきは,やはりGAFAである.2020年は,GAFAのヘルスケア関連の投資が相次いで発表された年だった.いよいよ,既存の医療機器メーカーと新興医療機器メーカー(GAFA)との「仁義なき戦い」が始まったと言える.最近,米議会下院小委員会で作成された「GAFA解体指令書」によると,GAFA幹部たちの生の声が記載されている.巨額の資金を背景に,「潜在的な競合他社の無力化」,「人材の獲得」,「サービス改善のための製品の統合」に向けて,多額の資金を背景に経営幹部が素早く手をうってきたことがわかる.
例えば,グーグルはついに2020年8月,保険事業へ参入を発表した.グーグル子会社のヘルステック企業Verilyが,大手保険グループのスイス・リーと協業し,保険事業をおこなう新たな子会社,Coefficient社を立ち上げた.グーグルのこの動きは,保険業界の在り方を大きく変える可能性がある.というのも,2019年11月に,グーグルはフィットネストラッカーのFitbit社を約2100億円超で買収すると発表しており,こうしたデバイスから得られるヘルスデータを活用して,データドリブンな保険商品を設計していくことが考えられる.さらに,保険以外の領域でも,グーグルはここ数年で買収・提携・新規事業といった形でヘルスケア分野に多大なリソースを割いている.たとえば,囲碁AIの「アルファ碁」で有名なグーグル子会社のDeepmind社には,買収資金を含めて2000億円以上の資金を投下しており,病院患者160万人の医療データを基にした病院向けサービスや,AIを活用した創薬事業などを行っている.グーグルは,検索エンジンで培った機械学習の技術と,子会社や協業先のヘルスケアサービスを掛け算することで,ヘルスケアの領域に大きな変化を起こそうとしている.
一方,アップルはiPhoneやApple Watchといった世界中で使用されているデバイスを基盤に,ヘルスケア事業を立ち上げようとしている.2020年9月には,シンガポール政府とパートナーシップを締結し,Apple Watchをつけて運動をする国民に報酬をあたえる政策を発表するなど,その動きは一国の政府をも巻き込み始めている.モルガン・スタンレー証券はアップルのヘルスケア事業の売上が2027年までに最大3130億ドルになると予測している.これは「アップルはヘルスケア企業に変わる」と予測しているに等しい.
そして,アマゾンもヘルスケア分野への投資を本格化している.2020年11月には処方薬をオンラインで販売する「アマゾン薬局」の立ち上げを発表し,年間で売上30兆円超といわれている米国の処方薬市場への参入を開始した.アマゾンは他にも,JPモーガン・チェイス,バークシャー・ハザウェイとの合弁会社を基盤とする,バーチャルクリニックサービス「アマゾン・ケア」の試験運用を自社社員向けに行っている.これはオンライン診断と,医者の往診,薬の販売,配達等が一体となったサービスで,ゆくゆくは「アマゾン薬局」に統合されて,一般の消費者向けへのサービスへと進化していくと考えられる.アマゾンが掲げるミッションであるThe Everything Storeは,ヘルスケアサービスも取り込んでいくことになる.
GAFAはユーザーとの接点と膨大なデータを活用して,ヘルスケアのプラットフォームを構築しようとしている.米国だけでも300兆円ともいわれるヘルスケア領域の覇権をめぐり,2020年代にしのぎを削っていくことになる.GDPR(EU一般データ保護規則)など,データを保有するプラットフォーマーへの逆風が世界的に広まっており,GAFAがデータを独占的に使用できる時代がいつまで続くかも不明瞭になってきているものの,強大な「プラットフォーマーとどのように連携して事業を創造するか」,「どのようにプラットフォーマーを使いこなすか」を考えることが当面重要になってくるだろう.何らかの政治判断がでないかぎり,数千億円を超える投資を簡単に決断していくGAFA経営陣に対抗していくことは現実的ではなくなった